FC2ブログ

    スポンサーサイト

    上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
    新しい記事を書く事で広告が消せます。

    【い】石の踊り子【こ】

    土曜日、暇潰しに公園の隅っこで回転していると、見知らぬ老人が手招きしているのが見えた。
    公園には他にも人がいたが、どう考えても俺のことを呼んでいた。
    何度か目が合った後、老人は付いてこいと身振りで示し歩き出した。
    俺は少し考えてから付いていくことにした。

    老人は町外れの廃工場の前までくると、改めて手招きをしてから地下への階段を降りていった。
    地下は獣臭い穴蔵だった。
    熱がこもっていて酷い暑さだ。汗が玉になって落ちた。
    奥にドア。
    戸を開けると中は小ぢんまりとした教室で、ランプの頼りない光が辺りを照らしていた。
    アセチレンの匂いが鼻をつく。

    (何か思い出しそうになった。でも、何も思い出さなかった。)

    教室の壁にもたれるようにしてモグラが編み物をしている。
    モグラは一心不乱にかぎ針を動かしながら、何やらブツブツと唱えていた。
    曰く、
    「冬は寒い、じきに冬だ、時間がない、間に合わない」
    俺は
    「まだ夏ですよ」
    と話しかけたが、モグラは見向きもせずに
    「冬は寒い、じきに冬だ、時間がない、間に合わない」
    と繰り返すばかりだ。
    その足元でミミズが
    「大地を汚した者を私達は絶対に許さない!」
    と怒り狂っていた。
    床にはペンキがぶち撒けられていた。これが原因だろう。
    「私達の偉大なる大地を返せ!」
    そこで周囲のペンキを剥がしてやると、ミミズは曖昧な表情を浮かべ、唾を吐き、何処かへ行ってしまった。
    やれやれ。
    俺は大きく溜め息をつき、教卓の横に備え付けられていた消火器を手にとり教室をメチャメチャに壊した。
    机も椅子も片っ端から粉砕していく。随分と破壊力の旺盛な消火器だ。
    いや、旺盛なのは俺の破壊衝動か。
    最後に壁をひっ剥がすと、向こう側に歯車の群れが現れた。
    キーキーと耳障りな音をたてている。
    歯車の隙間から精肉工場の娘が這い出てきた。
    大袈裟なポーズをとり、
    「どう? 楽しかった?」と微笑む。
    娘の服は所々破れ、白い肩が覗いていた。
    俺はそれを食い入るように見つめていた。
    ほっそりとした、美しい肩だったからだ。
    しかし、娘が何気ない素振りで肩を隠すと急に羞恥心に襲われ、赤面した。
    慌てて深呼吸し
    「何てことはなかったな。君のことは素敵だと思うけれど」
    と応じる。
    だが、早口だった上に語尾が丸まってしまい言葉になりきらない。
    娘は不明瞭な笑みを漏らし、俺は益々赤面した。

    その間も歯車は回り続けていた。
    歯車はポンプを動かし水を汲み上げる。
    徐々に水位が上がり天井が池になる。
    天地が逆になり、水面には外の景色が映っていた。
    誰かが踊っている。
    躍りながら手に持った石を投げている。
    石は大きな放物線を描いて池へと落ちる。
    次から次へ池に降り注ぐ。
    波紋が広がり、ぶつかり、複雑な模様を描いた。

    しばらくの間、俺はそれを眺めていた。
    石の止む気配はない。
    一体いつまで石は投げ込まれ続けるのだろう。
    興味があった。最後まで見届けたかった。
    けれど、大切な用事があったのを思い出し、後ろ髪を引かれながらも帰ることにした。

    外はまだ、だいぶ明るかった。
    随分と日が伸びたんだな、などと月並みなことを考える。
    一足飛びにやって来た夏の湿った空気が肌に絡みつく。
    どことなく歯切れの悪い風が吹き抜けていった。

    用事には遅刻した。
    一応言い訳をしたが、しどろもどろな上支離滅裂で、かえって相手の不信をかってしまった。
    余計なことは言わない方が良かったのだろう。潔く謝るべきだった。
    しかし、何か言わずにはいられなかったのも事実だ。
    置き所のない、説明のつかない気持ちを共有したかったのかもしれない。

    用事を終え、帰宅する道すがら精肉工場を覗いてみた。
    娘の姿は見当たらなかった。あの素敵な肩をもう一度見たかったのだけれど。
    どうにも収まりがつかなかった。
    そこで、もう一度公園へ行き、精神が充足するまで回転することにした。
    出発点からやり直してみようと思ったのだ。

    結局、大した事件も起きず夜明け前まで回転していた。
    おかげでしばらくの間、真っ直ぐ歩くことができなかった。


    告知(?)

    告知は有りませんが、暇な日に公園あたりで何かやろうかしら、などと思うことが有ります。


    追記

    もうすぐ七夕ですね。
    昔から、何故か七夕が近付くとウキウキとした気分になります。

    ちょうど短冊が大量に余っているので、願い事がある人は一声掛けて下さいな。


    (秋山)
    スポンサーサイト

    コメントの投稿

    非公開コメント

    プロフィール

    The Freaky Watsons

    Author:The Freaky Watsons
    ◆ 秋山陽平 Vo&G
    ◆ モリシタシュン Vo&G
    ◆ フクズミナオキ Dr

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR
    アクセスカウンター
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。